武相荘

 ぶあいそう、と読む。次郎と正子の旧白洲邸が2001年から公開されているのでいつか行ってみたいと思っていたのが、梅の香る春の一日やっと念願がかなった。

 小田急線鶴川駅からほど近い能ケ谷というところ。戦争と敗戦を予見して昭和16年に移り住んできたというのだが、当時はずいぶんと田舎だったのだろう。その雰囲気が窓ガラス一枚にまで見事に残されているのが、武相荘の魅力である。
 「古いものは良い」と一口に言うが、古い良いものが残るのは実際には容易ではない。古民家ブームだそうで同じようなことをする人が少なくないようだが、実際には住み辛かったり、意外に経費がかかったりという話も聞く。ここも古い農家を買い取って少しずつ手を入れながら暮らしていたと伝えられているけれど、手を入れるのを最小限にして(とは言っても大々的な修復工事が必要だった)なるべく原型をとどめようとしているところが二人らしい。そのための不便を厭わないのが、次郎の言葉を使えばプリンシプルであろう。
 私の家は父が銀行員で転勤族だったから、古いものは見事なほど何もない。引っ越しの度毎に古いものはどんどん「整理」されていった。だから余計にそう言うものに憧れを抱くのだろうと思う。

 古いものを残すには、時間もかかる。お金もかかる。さらに言えば、人が作ったものを集めてきて並べているのは貧しい人だと書いたのはサンテックスだったか。

残しただけ、集めただけではだめなのだ。
古いものが残って本当に生きていく条件は、想像以上に厳しい。
 
 
 
『城砦/Citadelle』サン=テグジュペリ、Sodis社(仏語)
 

2009年 2月 15日


Facebook




このサイトにおける全ての文章、及び写真等の著作権は銀遊堂に帰属します。
copyright(c)2009 GINYUDO all rights reserved.
designed by Tamami
Phi Lein