桜三題
今年の桜

今年の桜を見ないで叔父が逝ってしまった。
戦争から帰ってきて山間地に入植し、以後開拓の人生だった。畑を耕し、桜の木の下で疲れた身体を休めただろう。一升酒も飲んだだろう。親しい人が逝くといつも、あのひとは幾度の桜を見てきたのだろうと想う。信州の春は、うめ、もも、さくら、あんずなどの花が一斉に咲くひときわ華やかな季節だ。それでいて毎年違う表情を見せる。人を送るには一番ふさわしい季節に想われる。
山の春は遅い。新しい墓に桜が静かに散っていくだろう。
合掌。


記念の桜

銀遊堂の工房の近くに、戦後建てられたと思しき古い家があった。
古いながらも良く手入れのされた風情のあるその家の解体が、ある日始まった。パワーシャベルが入り、解体というより破壊していく。そこまでは普通の風景だった。しかし次の日通りかかると、パワーシャベルは桜の木に襲いかかっていた。庭木の処分にはそれなりの事情があるのだろうが、というより解体の事情に比べればとるに足らない事なのだろうが、パワーシャベルで潰すように処理をする感性には戦慄が走った。無惨な木屑になってしまった五分咲きの桜を見ながら、少し前に報道されたバラバラ殺人事件を思い出して暗然としてしまった。
新築の記念樹として植えられたであろうこの桜とその生涯に、合掌。


桜の美術館

栃木県立美術館の「日本の表現主義」展の仕事が一区切りついた。
この美術館の所在地は宇都宮市桜という地名だ。調べるまでもなく、さくらという地名は全国にたくさんある。小樽市桜、栃木県さくら市、世田谷区桜...
もちろん桜の木に由来する物もあるだろうが、もともとは「狭い」の意の「さ」に「谷」の意の「くら」が結びついた、地形由来の地名なのだそうである。だが実感としては、この時期桜の咲き誇る美しい土地を想像する。
桜に埋もれた美術館なんて、なんて素敵だろう。刹那の美に、合掌。
この展示は4月26日から6月15日まで開催された後全国各地を巡回するので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

2009年 4月 5日


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