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渡辺克巳のプリントを、数点プリントすることになった。
渡辺克巳は、渾身の力で「新宿」を写しきった写真家として記憶していた。 原稿として渡されたのは、ヴィレッジバンガードの店内と呼び込みふたりのイメージ。四切りのRCプリントで、近美に納品するためにバライタプリントを作ってほしいとのことだった。物故作家の場合、プリントはあるがネガは無いと言うケースは珍しくない。今回は、スキャンしてフィルムを作り、密着プリントというディルバープリントの標準行程になった。 プリントを仕上げてギャラリーに届けると、プリントは小泉悦子さん(渡辺克巳夫人)にいったん送られチェックを受けて戻ってきた。そのプリントは赤ペンで指示がみっちり書き込まれ真っ赤だった。ギャラリーのオーナーは済まなそうにしているし、他のギャラリストにみてもらっても、「スキャンからのプリントだったらこれが限度じゃないか」という意見だったようだ。昔はこういうケースは下手な写真家がプリントでなんとかするための救済策だと思っていたが、(あるいは下手なプリンターが受ける怒りの指示)しかし今回は違う。書き込みを良く読むと、悦子夫人の渡辺作品に対する理解と愛情があふれている。私は『新宿、インド、新宿』に収録されている悦子夫人の文章を再度ゆっくり読み返してみた。 もう一度やります、ギャラリーにそう伝えて再度原稿を受け取った。 こういう場合はスキャンで勝負が決まる。ディルバープリントでは覆い焼きや焼き込みができないのでなおさらだ。慎重に何度もレンジを合わせ直しスキャンすると、驚いたことにオリジナルプリントでは白飛びしていたウエイターのワイシャツのトーンが見事に再現されたではないか。私自身期待以上の結果だった。悦子夫人の情熱が呼び寄せた奇跡のようにも思えた。 やっぱり銀塩は凄い。見えない部分にもデータが潜んでいるのだ。 仕上がったプリントは悦子夫人にも満足していただき、無事美術館に納品された。 |
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